上総での作者の交友関係、勉強相手は限られてれていた
上総では友人といえる遊び相手はあまりいなかったでしょう。身分からいって国司の娘とお付き合いできるのは在庁官人の娘達くらいです。しかし彼女達は言葉も東言葉で意思疎通にも少々問題がありました。それに彼女達、土豪の娘は結構家の仕事を分担していたので、そうしょっちゅうはお相手できなかったでしょう。季節の行事とか花見、紅葉狩りなどには案内役でお供したと思いますが。そんなわけで普段は姉と継母、自分と姉の二人の乳母などが遊び相手だったのです。もちろん継母からは読み書き、歌の勉強、貴族社会の一般常識も教えてもらいました。でも彼女には不特定多数の人と付き合うチャンスが全くありませんでした。このことは後に宮仕えに出たとき他の人となじめないという社交性の欠如となって表われます(そうでなくとも宮仕えはたいへんなのに)。もちろんボーイフレンドなどできるわけもありません。
人だけではなく田舎には書物もありませんから知的好奇心を満たすものが何もありませんでした。仮にもっと身分の低い立場だったら、野山を駆け回って自然の中で遊ぶという楽しみもあったかも知れません。そういうわけで彼女が上総の生活に飽き飽きしていたのは無理もありません。もっと広い世界を知りたいと思うのは当然でした。