更級日記の東海道の旅をもとに平安時代の古地形や文献で平安時代日本を再現
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富知六所浅間神社の歴史地理学的考察

 本サイトでは冨士市にある富知六所(ふじろくしょ)浅間神社が地理的に平安時代東海道の重要な中継地点ではないかと考えている(静岡県富士市浅間本町5-1)。この社は創建時は富士山中腹にあったと伝えられるが、延暦の富士山噴火に際してこの地に遷座したという(延暦4年785年)。



富知六所浅間神社の歴史的背景



  延喜式に記載のある式内社であるから平安時代初期にあったことは間違いない。更に、この地域には7~9世紀のものとみられる集落跡(東平遺跡)、三日市廃寺跡(定額寺「法照寺」か)などがあることから律令時代の郡衙があったのではないかと推測されている。豊かな湧水があることも、交通の要衝である条件を満たしている。平安時代以前の東海道が愛鷹山の裾伝いの道(根方道)である場合、足柄方面から来た場合、東から西に向かい、どこかで富士川を渡るべく進路変更しなければならない。その場所がこの浅間神社のある場所であれば全て自然である。古くから街道の結節点で人、物の往来があるところであれば、社(やしろ)を建立、維持するのも都合がよい。逆に人も住まず、水もなく、景色だけが神々しい場所では社を作っても維持できない。この神社は平安時代までは、東海道の官道の要衝として栄え、鎌倉時代以降、東海道が浦方道(海岸ルート)に変わった後も、守護大名の保護を受け、存続することができたと考えられる。それというのも、式内社という格の高い神社であったればこそである。裏返して言えば、古代には、そのような格の高い神社がここに置かれるだけの、戦略的、経済的価値があったという証左である。単なる富士信仰の神社なら、式内社にはならなかっただろう。



浅間神社の地理的位置



  東海道を西からやってくる場合、富士川の渡河地点とみられる水神の森から愛鷹山を望み一直線に葭の生えた湿地を横切ってくれば、葭原が終わるところに富知六所浅間神社がある。旅人はここで冨士の清らかな水を飲み、神様にお参りした後、進路を東にとれば、足柄峠に向かう根方道に入ることができる。現在、葭原を横断する道路の痕跡は全く見られない。また明治20年測量の地形図にも痕跡を検出できないことから、江戸時代よりはるか昔に度重なる洪水で道が流され、東海道が海岸方面に移動したこともあり、復旧されることがなく消滅したと想像される。

また浅間神社から、東に向かう『根方道』ルートの痕跡も現在の地名で「今泉」辺りまでは消えている。鎌倉時代以降、東海道が南に変遷した結果、浅間神社を経由する必要がなくなり、江戸時代の吉原宿に接続され消滅したものであろう。



富知六所浅間神社の本当の祭神はかぐや姫



  公式には 主神として大山祇命(おおやまつみのみこと)、配神に木花之佐久夜賣命(このはなさくやひめのみこと)とされているが、これは江戸時代中期以降の事だという。それ以前はなんと『赫夜姫』、竹取物語のかぐや姫が祭神として祀られていたというのである。赫夜(かくや)とは『夜を光り輝かす(照らす)』という意味で、かぐや姫とは『月のお姫様』という意味である。『竹取物語』は平安時代には貴族階級だけとはいえ書物として、世に流布されていたことが知られている。そして更級日記の作者の父、菅原孝標が上総での任を終えた数年後、小右記の作者、藤原実資の愛娘、千古の家司(家政管理者)に任ぜられたことはつとに知られている。その千古(ちふる)さんを、父親、実資のあまりの溺愛ぶりに世間の人があきれて『かぐや姫』とあだ名したことは有名である。おそらく、『竹取物語』はこの地方に伝わる民話であったのが、ここを通った都人で筆の立つ人が帰京後物語に仕立てたのであろう。東海道という幹線道路であればこそ、人の往来も激しくそのようなことが起こっても不思議ではない。江戸時代に北前船が寄港する港々に同じ歌が多少歌詞を変えながら伝播していったことと似たようなことだろう。



※富知六所浅間神社に関する情報は『冨士おさんぽ見聞録』というホームページの中の「下方五社富知六所浅間神社」というページで得たものです。地元ならではの貴重な情報に感謝します。詳しくは下記URLを参照。 http://iiduna.blog49.fc2.com/blog-entry-122.html#more122

新築なった富知六所浅間神社拝殿

富知六所浅間神社の本殿は江戸時代の造営であったが、昨今は耐震上も限界に達し、新たに新築されることになり平成29年10月に竣工した。建物の背景にあった樹木も、工事のため伐採され、すっぽんぽんで寂しく、できたばかりの殿舎もピカピカで重厚感に欠ける。しかし、これで今後数百年同じ姿でこの地に鎮座することを考えれば感慨深いものがある。

 

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