作者が物語を書き始めたのはいつ頃か?
作者が物語を執筆し始めた時期のヒント
更級作者が物語りを書き始めたのがいつ頃か、あるいは、実際に書いたのか、すら文献証拠はありません。しかし物語を書いていたことは藤原定家の更級日記奥書によるまでもなく、確実といっていいでしょう。それは更級日記が読者を念頭に書かれていると思しきところが散見され、また、更級日記の手馴れた文章運び、筋立ては普段から物書きをしていない人間には到底出来ないことだからです。作者が実際に物語を書くのは少なくとも帰京後ですから、東海道の旅を語っている、この場でコメントするのは早すぎるのですが、いくつかの本でこの件につき作者が誤解されているように思ったので、先走って松太夫の「推測」を書いておきます。
更級日記の「東山に移る」段(万寿2年)が最初にまとまった物語を書いた時期と推測しています。現代の作家もよくホテルや別荘地、温泉地に缶詰にされるようですが、彼女も構想を一気に小説として書き起こすため集中出来る環境に移ったのだと思います。そういえば紫式部も執筆のため石山寺にこもったではありませんか。万寿2年といえば西暦1025年、作者はまだ18歳で、小説を書くのには少し早くないかと思われるかもしれませんが、最近の芥川賞の女性受賞者を見ていたら、そんなことはないと思わされます。むしろ、当時は学校がありませんので、一日中物語のことばかり考えていたら、自然に書けてしまいそうです。