更級日記の東海道の旅をもとに平安時代の古地形や文献で平安時代日本を再現
文字サイズ

貴族の屋敷で猫を飼っていた訳

貴族の屋敷では猫はいなくてはならない存在だった



更級日記には帰京後の屋敷で猫を飼っていた話が出てくる(大納言殿の姫君)。この猫は人なれしていて、明らかにどこかで飼われていて、迷い猫となり菅原邸にやってきたものであった。現代では多くの家庭でペットとして猫を飼っているので、何の違和感もなくそのエピソードに入り込んで共感を得ることができる。

  ところで、この猫は菅原家にやってくる前もペットとして飼われていたのだろうか。いや、当時の猫には重要な任務があった。猫の仕事は平安時代から、つい昭和に至るまで一貫して『ネズミ捕り』である。鼠(ネズミ)は有史以来人間の食糧を食い荒らす害獣であった。これを防ぐために弥生時代の高床倉庫には通し柱にネズミ返しが設けられていた。日本への猫の渡来時期は、はっきりしないが日本霊異記に猫の話が出てくることから、遅くとも奈良時代には来ていたと考えられている。それから平安時代までにはかなりの猫が穀類の生産増加と共に増殖飼育されていたと想像される。現代では一般家庭の場合マンション等、住宅の気密化で、さほどネズミの害を感じないが、現代でも専門のネズミ駆除業者が存在することを見てもネズミの害は今もってある。

 平安時代の貴族の屋敷には家族はもちろん多数の奉公人が居てその食料として、また各種行事が多く参列者に供する食事を作る必要から、米などの穀類が大量に備蓄されていた(注1)。当時は金属製の米櫃は望むべくもなかったから、これを守るには猫の力を借りるしかなかった。また、米は仏堂のご本尊への供物としても供えられた(注2)。想像であるが、おそらく猫は普段は米蔵か台所で飼われていたのだろう。しかし、猫の一匹や二匹で本当にネズミに対処できるだろうか。体験しないと納得できないだろうが実際にこれは効果絶大である。以下、筆者の体験に基づき猫の霊験あらたかな効果について述べる。


猫はネズミの天敵である


言うまでもないが、ネズミは猫を極度に恐れ気配を感じただけで逃げる。いわばこれはネズミの遺伝子に組み込まれた生存の仕掛けである。『窮鼠猫を噛む』という諺があるが、裏返せば、絶体絶命にならなければネズミは猫に抵抗しないのである。


現代のネズミ駆除方法


ネズミは穀物ばかりでなく人間の食べるものは何でも食べる。そればかりか、石鹸もかじる。一般住宅では個人的に対処することが多いが、店舗、特に飲食店などでは衛生問題になるので、専門のネズミ駆除業者を呼ぶことになる。鼠の種類にもよるがネズミの駆除方法はいろいろ考えられている。



  • 毒餌

  • 罠…昔懐かしい鉄カゴなど

  • 忌避剤…ネズミの嫌いな匂い(ハッカなど

  • 忌避音…超音波

  • 電撃…高電圧で感電させる

  • 粘着マット…ネズミの通り道に仕掛け絡め捕る

  • 毒ガス…バルサンなど人間には害が少ない燻蒸ガス


ビル内の飲食店などでは、外部との遮断が容易で、上記の方法を組み合わせて駆除が行われる。一方、木造の一般家屋では、ある程度築年数が経てばどこかしら、穴がありネズミに侵入される。筆者の家も築30年を超え、ネズミが天井裏で運動会をしている。しかし4年前に飼い猫が死ぬまではネズミの気配など感じたこともなかった。平穏であった我が家も2014年に猫のミー子が息を引き取る日を境に、ネズミが天井裏を走り回るようになった。思えば我が家の娘、ミー子は19年の生涯をかけて家を守ってくれていた無給のガードマンだった(ありがとう、ミー子、合掌)。猫が居なくなってからネズミ退治に毒餌、忌避剤、粘着マットを試してみたが、効果はほとんどない。当座だけ鳴りを潜めるが、ほとぼりが冷めた頃、また現れ、しまい忘れた食品や、詰め替えの石鹸液のパックにまで穴をあけ食い散らし、これ見よがしに糞を残してゆく。鼠駆除業者に見積もりだけ頼んだことがあるが、半端な額ではなかった。帰り際にそっと、「実は猫が一番効くんですよ」と教えてくれた。やはり人知より神のお使いである猫様に優るものはないのだ。


注1. 『大鏡』には貴族の邸宅で様々な行事が行われ、それに伴い参列者に食事が供されたことが記されている。

たとえば、『大饗(だいきょう)』といって宮中や貴族の屋敷では多くの客を招いて大宴会が開かれた(大鏡三十六段など)。また、法事で読経をする僧たちにも食事がふるまわれた。厳寒期の陰暦12月に開かれた法成寺の五大堂供養(施主、藤原道長)では100人の僧が境内で読経を行ったが、その際、鼎に湯を沸騰するまで沸かし、そこに飯を入れ、アツアツの湯漬けをふるまったエピソードがある(大鏡一七五段)。

注2. 『大鏡』五十六段には藤原実資邸に建てられた御堂の仏様に三十石の供米を欠かさなかったことが記るされている。

 

カテゴリ一覧

ページトップへ

この記事のレビュー ☆☆☆☆☆ (0)

レビューはありません。

レビューを投稿